渡辺篤 個展「わたしの傷/あなたの傷」

当事者経験をもとにした個人的なテーマを、社会問題にも接合させながら渡辺篤は制作を続けてきました。近年は、自身が過去に深刻な「ひきこもり」だったことをきっかけに作品を展開させています。現在、「ひきこもり」は一説によると日本に150万人以上居るとも言われています。しかしながら当事者の居る状況自体が、いわばブラックボックス化していることもあって、どこででも起こりうる問題であるものの、すぐにはその特効薬の見つかることのない切実な社会問題となっています。また近年では日本の文化的・経済的等の事情を背負ったこの「ひきこもり」という社会現象は、海外でも"Hikikomori"として語られ、注目されはじめています。

渡辺の近作《止まった部屋 動き出した家》(2014年)では、一畳サイズのコンクリート製の家型造形物の中に、1週間自身の身体を密閉してこもり続け事実上の身体拘束をしたのち、カナヅチとタガネを使って自力で脱出をしました。コンクリートを素材としたインスタレーション内でのこの過酷なパフォーマンスでは、山岳修行における「擬死再生(一旦死んで生まれ変わること)」や仏教由来の「内観」(※)にも通じる"とらわれからの再生"を、自身のひきこもり経験に踏まえた形で表現しました。また、この際の個展開催に向け、実際にひきこもりを続けている当事者たちに向けて、インターネットを通じ、彼ら彼女らの暮らす部屋の写真を募集しました。その結果集まった約60枚を展示。会期中には渡辺自身も思いがけず、ひきこもり当事者が複数会場に訪れました。この展覧会はテレビ・雑誌・新聞など、メディアでも多数取り上げられました。今回は、この作品を再演した映像を展示予定です。

  • 「内観」:ここでいう内観は、僧侶の吉本伊信(1916~1988年)が浄土真宗系の信仰集団に伝わっていた自己反省法・「身調べ」から苦行色や宗教色を取り除いて、万人向けのものとした修養法を指します。両親をはじめとした身近な人に対する自分を、1週間こもって3つの観点に絞って深く反省をします。起床後は「半畳」、就寝時は「一畳」の場所にこもって行います。渡辺はひきこもりを終える経緯の中で2度、内観を経験しました。

また、《プロジェクト「あなたの傷を教えて下さい。」》(2016年)でも、渡辺は自身のウェブサイトを用いて募集を行いました。これは個人的な心の傷についてのストーリーを匿名募集するプロジェクトです。現在までに約700件の当事者性豊かな文章が、日本語のみならず様々な言語で送られてきています。制作方法は、投稿文を円形のコンクリート板に書き、それをあえて一旦ハンマーで割って、陶芸の伝統的な修復技法である「金継ぎ」を応用し、修復をするという形式です。"心の傷はいつか光り輝く"という願いを表すその制作工程は、一枚が修復される度に渡辺のSNSを通じ、リアルタイムに画像が発信され続けています。

本展「わたしの傷/あなたの傷」ではこれら近年の作品群を多数展示予定です。

さらに、自身の母親との合作も制作予定です。ひきこもりであったときの渡辺にとって、扉の「こちら(わたし)」側で持っていた傷は、同時に扉の「むこう(あなた)」側の傷でもありました。それに気づくことが渡辺がひきこもりを終えた理由でもあるのです。渡辺家の家屋のミニチュアを一旦壊し、当時を振り返る対話をしつつ、お互いで修復を試みます。

渡辺自身が過去に負った傷は、他者の傷に気づくことや、アートにおける発表活動と向き合うことで昇華されていきました。そうした自身の傷の修復の経緯をきっかけとして、「弱い自分・弱い誰か」が見殺しにされない社会を作るため、相互に寄り添う態度を、アートを通して社会に提案しています。

ギャラリートーク

作家自身による立席での作品解説をいたします。
予約の必要はありませんので、開催時間までにご来場ください。
お席のご用意はありません。ご了承ください。

  • 日時:2017年8月19日(土)、25日(金)19:00~19:40

アーティスト紹介

イメージ

渡辺篤/Atsushi Watanabe

1978年、神奈川生まれ。東京藝術大学在学中から自身の体験に基づく、傷やとらわれとの向き合いを根幹とし、かつ、社会批評性強き作品を発表してきた。表現媒体は絵画やインスタレーション、パフォーマンス等。テーマは新興宗教・経済格差・ホームレス・アニマルライツ・ひきこもり等多岐にわたる。卒業後に路上生活やひきこもりの経験を経て2013年に活動再開。以後精力的に発表を続けている。
近年は「ブレイクスルー」(NHK Eテレ)等のテレビ出演や、雑誌・新聞掲載多数。また福祉媒体での執筆や、ひきこもり経験を活かしたスピーチも。展覧会は「黄金町バザール」(2016年、神奈川)、個展「止まった部屋 動き出した家」(2014年、NANJO HOUSE)等。

出展作品

出展作品
「わたしの傷/あなたの傷」
出展作品
「止まった部屋 動き出した家」

開催概要

開催期間

2017年8月4日(金)~8月27日(日)

時間

12:00~20:00

  • オープニングパーティ 8月5日(土)18:00~20:00

場所

ROPPONGI HILLS A/D GALLERY (六本木ヒルズ アート & デザイン ストア 内)

入場料

無料

ご予約・お問合せ 03-6406-6875
(ROPPONGI HILLS A/D GALLERY)